第8回光黎書展 残響
社中展が終わって残務整理に追われている昨今、礼状と共に展覧会、冊子(図録)に共感の便りが次々と届いています。行事は会員皆の協力があって成り立つもの、私の手元にだけ留めて置くのも如何かと思い開示する事に致しました。要約して主旨だけ載せておきます。
ー北区あいの里の女性ー
冊子の「ごあいさつ」の中でコロナ禍での生活の中で、常に緊張状態で自身を鼓舞せざるおえなかったと記されたお言葉で、私は身振るいする程の感動を受けました。新型コロナウイルスの、世界中の歴史の中に自分が生き暮らしている現実をしっかり捉える座右の証として大事にします。
ー豊平区の女性ー
厳しいコロナ禍にありますのに創作の熱い思いに、心を動かされております。
ー東京・大東文化大学院生ー
ホームページの動画を見て、北の大地を盛り上げようとの強い信念と熱量に感動しました。
ー仙台・男性ー
ホームページの動画を見て、レベルの高い作品が多く、高みを目指して精進しているのが分かり、私も気力が湧いてきます。
新型コロナウイルス悩まされたこの半年間の様々な出来事が思い出され、これからの仕事や生活に与える影響について改めて思いをめぐらすような作品がたくさん掲載されており、時間を忘れて読みふけっておりました。
ー書道会の重鎮、先達ー
北海道の書道会に一石を投じたすばらしい内容だった。中央書壇で中心的な位置を占められている高木聖雨先生のご指導が大きく花開いたと感動した。
「コロナウイルスとの特異な日常を綴る」は作品、句、コラム、この三者のとり合わせも他の書展では見られない世界でした。作品が良くて、句が良くてコロナの世界に生き生き人間が描かれていたものでした。
作品を見、句を読み、すると目はコラムの方へ進みます、気がついたら、この編集、割り付け共にすばらしいなあと感心しました。
以下19作について感想を述べます。

・一作目
花見には行けぬと風に言ひ託す
手帳にメモしたようなサラリと書いた横書きの作の”春風”に思いを乗せて同感です。

・二作目
母の日や人とを繋ぐ褒め言葉
母の日に手縫ひのマスク手紙添え
2色の使い分けと調和もよく、母の日に2句で4倍の心を運んでくれます。誰もが自分の母を思い出すことでしょう。

・三作目
祈 願
コロナ収束への”祈願”だけでなく、誰もが「祈り」を心に秘めています。見る人の心にホっと共感を呼び起こす作。紙型、紙の色、台紙と共にとり合わせが抜群、お見事。

・四作目
夏場所の中止やちゃんこ汗もダメ
おしまいの「ダメ」が一寸見ずらくて「おや?」と思ったところが「汗もダメ」と読めて、三密の代表のような、力士達に同情心が湧いてきます。「オヤ?これはなんと読むのかな…」と思わせるのも作品の手法?と思わず共感しました。

・五作目
吾を守るマスクは他の人も守る 他二句
扇面の大きさに差をつけて、一作の効果も考慮した作、黒地に白字、誰にでも読める作品ですね。読みづらい字の多い仮名作家の作品の前で「イライラ」することが多々。この作品を手本にして下さいと申し上げたい気持ちです。

・六作目
自粛解除油断大敵蟻地獄
漢字作の手本です。力量をさりげなく発揮した作。お弟子さん達は倖せですね。

・七作目
消毒に気をとられ過ぎ麦の秋
おしまいに大きな字を配した秋の空を見上げている感じでいいですね。この句の「気をとられ過ぎ」がまた素晴らしいです。一流の俳人の力量がチラリと見えました。

・八作目
奇跡 -日本の奇跡と称えるー
これは少字作家のお手本ですね。起承転結がピタリと決まってます。

・九作目
果敢な挑戦 -ラグビーの福岡堅樹選手ー
この紙の組合せは、まさに果敢な挑戦ですね。2枚を合わせた上から書いているのは全くドギモを抜かれた感じです。個展ではこんな事もできるのだと思いました。

・十作目
夏籠 -コロナ禍の終息願ひたる安居
夏籠(げごもり)と読むことを初めて知りました。破筆もこのように美しい線になるとすばらしいですね。お見事です。これは腕があってはじめてできる事ですね。

・十一作目
風を読み海図なき旅ヨットの帆
今の世界の指導者は皆さんこの心境かと思います。特にトランプさんの気持ちがこうだと思います。この句も名句と思います。

・十二作目
希望の象徴 -延期の東京五輪ー
ビシッと決まった1行目。漢字作家にも詩文書作家にもこれを学んでほしいな…と思いました。

・十三作目
懸命に換気に務め扇風機
この作風(一方の上部を空ける)は、筆者独自の世界になりました。家庭の居間にあっても安心して毎日見ていられる作です。
会場での楽しい、嬉しいそして貴重な体験をさせてもらいました。さらにこうして作品集を開いて長時間の充実した時を過ごす事が出来ました。
これから若い活力のある方々の時代です。どうか社中の皆さんを大切にされて、益々良い仕事を重ねていって下さい。
令和2年10月12日
第8回光黎書展を終えて
光黎書苑代表 戸澤 秋亭
ー来場の皆様500名超ー
コロナ禍の厳しい状況下、社中展を無事終える事が出来ました。これは偏に来場して頂きました、皆様のご協力のお陰であると感謝致し、心より御礼申し上げます。この状況下だからこそ、本来の書道展の雰囲気を望んでいた気持ちを痛感致しました。沢山のご示唆、励ましに支えられ乗り切る事が出来ました。
読売新聞北海道支社長をはじめ読売書法会、書道連盟の役員の皆様のお運びに恐縮と共に勇気づけられ、広く美術界のファンの皆様に共感を頂きました。
中国の留学生で、今は貿易商に務める女性は「私達が習わなかった中国の先達の書を宝の様に大事に扱い、習っている日本人の懐の深さに驚き、尊敬する」と述べられました。
最後に前書道連盟会長、山田太虚先生の言葉を添えて、私の御礼とさせて頂きます。「呉昌碩をこんな近くで鑑賞できるなんて望外の喜びである。有難う」
第8回光黎書展顛末雑記
謙慎書道会評議員
大東書道教授 津坂 周太郎
ホームページで、開催されたWEB書展人気投票結果コーナーです。人気の企画で会場でも注目の的でした。
ホームページで見るのと、実際にその場でみるのでは印象が違う為、お気に入りの作品を携帯でホームページと見比べられている方もおられました。
学童の生徒さんが、御家族の方と来場し日々の努力の成果を一緒に見ています。微笑ましい光景ですね。
これからの鍛錬の励みになる事でしょう。
御芳名をいただいてお渡しした御挨拶状です。クリアファイルに入っており、マスク入れとしても使用可能となっています。
コロナ対策として、受付に感染予防で各種消毒用品を設置していました。又、窓を開けるなどをして常時空気を入れ換え、換気を徹底していました。
来場された皆様に差し上げていた「ウエブ書展」での、先生の新型コロナに対する日々の考えを纏めた冊子です。会場に展示された作品を含めて約200点の作品が掲載されてます。表紙の「終息」という文字には先生の思いが込められています。
会場には、教室への案内も置かれていました。ご興味のある方はこちらへ→「教室のご案内」
会場へのエレベーターを降りると、正面には「光黎」の大字とコロナに対する書が置かれ先生の気迫がまさに伝わります。
鑑賞の手引きとして、特設の台を設置し高木聖鶴先生、高木聖雨先生、両先生の図録と呉昌碩の解説書等を用意しました。その手引きを見ながら名書を鑑賞する姿も数多く見られました。
ご友人を連れ立って来場される姿も、しばしば見受けられました。
お二人で解説の手引きを携帯で見ながら、名書をご覧になられています。これもまた新しい鑑賞の姿ですね。
会場では池坊の資格をお持ちの生徒さんが、お花を生けておられました。毎日、手直しされていたそうでとても綺麗ですね。
第8回光黎書展鑑賞の手引き
特別出品 高木 聖鶴先生
東風ふかば匂ひおこせようめの花
あるじなしとて春なわすれそ菅原道真
<鑑賞の手引き>
山場の「安流し那志」(あるじなし)の浮沈、緩急、筆の開閉をよく鑑賞して下さい。因みに先生の名をネットで検索すると書いておられる動画が見られます。
呉昌碩
臨石鼓文軸・民国元年(1912)69歳
<鑑賞の手引き>
1911年辛亥革命が勃発、翌年清朝は滅亡、王朝が交代します。同年69歳で名を「昌碩」と改めます。
70歳は地位も名誉も獲得し、西冷印社の社長にも就任し、篆刻会のトップに立ちます。70代は生涯を通じて最も作品数が多く、また最も脂ののった優品が多い時期でもあり、特に書においては、その傾向が顕著で、石鼓文を基盤とした呉昌碩独自の書風が形成されます。
呉昌碩(ごしょうせき)
<鑑賞の手引き>
書においては、石鼓文を基盤とした呉昌碩独自の書風が形成されます。
篆書の作品は、少し右上がりで文字の重心が高く、脚が長くて引き締まった字形を特徴とします。
行書体は、鋭さと張りのある力強い線質の作品が多くみられます。
「76,77,78歳の3年間が最も高潮に達して、全力を発揮した時期と言われています。
続いて、「号」を紹介しておきます。
「苦鐵、缶(ふ)、缶盧、老缶、缶翁」
高木 聖雨先生
「天歡(躍り上がって大喜びする)」
<鑑賞の手引き>
2019年6月に催された古稀記念の、高木聖雨書展(日本橋高島屋)出品作品。
実寸で70㎝×140㎝、額縁を入れると相当大きくなりますので図録より転載しました。
会場にて迫力、気宇雄大さを実感して下さい。
因みに、この作品は寄鶴展、東部謙慎展にも出品していましたので、先生お気に入りの作かと拝察します。
高木 聖雨先生
「徐靑籘詩」
<鑑賞の手引き>
徐靑籘詩の五言絶句を秦の時代の簡牘(かんとく)の書体を模した珍しい書風の軸装作品です。
※簡(かん)=木簡や竹簡
※牘(とく)=尺牘(せきとく)、断扁、メモ
作品下部に点(矢印)があるのは、一字抜けていますという印で、落款の下にその抜けた字を書いています。これで書式は間違いなく纏まります。
ご参考に。